三十代も半ばを過ぎ、僕は鏡を見るのが憂鬱でした。日に日に後退していく生え際、シャンプーのたびに指に絡みつく抜け毛。典型的な運動不足で、お腹も出てきて、体も心も重たい毎日でした。髪の悩みは自信を奪い、僕はいつしか人と目を合わせるのも苦手になっていました。そんな僕を変えたのは、一足のランニングシューズでした。健康診断の結果に危機感を覚えた僕は、藁にもすがる思いで、家の近所を走ることにしたのです。最初のうちは、数百メートル走るだけで息が切れ、三日坊主になるかと思いました。しかし、「髪のため、健康のため」と自分に言い聞かせ、週に三回、夜の公園を走ることを続けました。一ヶ月が過ぎる頃、体に変化が現れ始めました。体重が少し減り、寝つきが良くなったのです。そして、三ヶ月が経ったある日、シャワーを浴びていてふと気づきました。排水溝に溜まる抜け毛の量が、明らかに減っていることに。気のせいかと思い、髪を乾かしてみると、以前のようなペタッとした感じがなく、髪一本一本にハリが出て、根元が少し立ち上がっているような手応えがあったのです。劇的に髪が増えたわけではありません。でも、髪全体が元気を取り戻し、以前より薄さが気にならなくなっていました。走り始めて半年後、僕は会社の駅伝大会に自ら立候補していました。数年前の僕からは考えられないことです。走りながら汗を流す爽快感、目標を達成した時の達成感は、僕の心に眠っていた自己肯定感を呼び覚ましてくれました。髪の悩みで俯きがちだった僕が、いつの間にか前を向いて走っていたのです。運動が僕にもたらしてくれたのは、血行が良くなったことによる髪質の改善だけではありませんでした。ストレスが発散され、心に余裕が生まれ、何事にも前向きに取り組めるようになったこと。この精神的な変化こそが、最大の収穫だったのかもしれません。今も僕は走り続けています。髪のため、そして何より、自信に満ちた自分でいるために。あの夜、重い腰を上げて走り出した一歩が、僕の髪と人生を、間違いなく良い方向へと変えてくれたのです。
僕が走り始めたら髪と人生が変わり始めた話