私の家系は代々、男性の頭髪が30代を境に急激に薄くなるという、呪いのような運命を背負っていました。子供の頃、お盆の集まりで親戚の男性陣が集まった際、まばゆいばかりの頭頂部が並ぶ光景を見て、幼心に「自分もいつかこうなるのだろうか」という漠然とした恐怖を感じたのを覚えています。特に父は40代になる頃には完全に生え際が後退し、周囲からもその遺伝の強さを冗談めかして言われていました。20代の頃の私は、まだフサフサとした髪を誇っており、どこかで自分だけは例外かもしれないという淡い期待を抱いていました。しかし、28歳の秋、美容室で担当の美容師から「少し髪の毛が細くなってきたかもしれませんね」と告げられた瞬間、全身に戦慄が走りました。鏡を凝視すると、確かに分け目の地肌が以前よりも目立つようになり、洗髪時の抜け毛も明らかに増えていました。これが、あの家系の遺伝によるAGAの始まりなのだと直感的に理解しました。そこから私の、遺伝という目に見えない敵との戦いが始まりました。最初は市販の育毛剤や高価なシャンプーを試し、頭皮マッサージを毎日10分間欠かさず行いましたが、進行が止まる気配はありませんでした。父に相談すると「これはもう家系の運命だから諦めるしかない」と言われましたが、私はどうしても納得がいきませんでした。現代には専門の外来があることを知り、意を決してクリニックを訪れました。そこで行われた遺伝子検査の結果、私の5アルファリダクターゼの活性度は非常に高く、アンドロゲン受容体の感受性も平均を大きく上回っていることが判明しました。医師からは「非常に強い遺伝的要因がありますが、早期に医学的な介入を行えば維持は可能です」という言葉をもらい、闇の中に一筋の光が見えたような気がしました。処方された内服薬の服用を始めてから3ヶ月目、一時期的に抜け毛が増える初期脱毛に襲われ、やはり遺伝には勝てないのかと挫折しそうになりましたが、医師を信じて継続しました。半年が過ぎた頃、明らかに髪のコシが戻り、生え際の産毛が太くなっているのを実感しました。1年後の今、私は父が同じ年齢だった頃よりも遥かに豊かな毛量を維持しています。遺伝は確かに強力なプログラムですが、それを最新の医療でハッキングすることは可能です。父の頭を見て将来を悟ったあの日の恐怖は、今では自分をケアするための原動力に変わっています。家系の運命に抗い、自分の理想とする姿を守り抜くことができた経験は、私に大きな自信を与えてくれました。